tabi blog

旅 へ

『 青空がぼくの家 』
いつだったか、岩波ホールで上映されていたインドネシア映画。
ジャカルタの町の、スラムの少年と金持ちの家の少年が
貧困と富裕の対比の中にありながら、一緒に小さな旅をする友情のストーリー。
「家がなくても空がある.  この空が僕たちの家なんだ」
当時 建築設計事務所で、まさに“ 家 ”の設計に携わっていた私は
この映画の投げかける、タイトルの響きが呼び寄せる何かに
どうしようもなく心がざわめいたのです。
そしてこの時から、いつかこんな旅をしてみたいと思うようになりました。
青空を家にして。


旅立ったのは、20 代最後の年でした。
「20 代をどう過ごすかが、その後の君の人生に大きく影響するだろう」
大学研究室の恩師の心に残る言葉が、背中を押してもくれたのでしょう。
“ 世界中の建築や街並みを、この目で見てみたい。
書物や写真で眺めているだけではない、本物を、その場で直に感じてみたい “
そんな想いが徐々に募った 20 世紀最後の夏、
設計事務所で共に修行時代を過ごし旅への想いを語り合った
後に仕事でもパートナーとなる佐藤と
少しずつ貯めた決して潤沢とは言えない資金、片道のフライトチケットを手に
これから出会う未知らぬ世界、未だ見ぬ風景に胸を躍らせながら
旅へと出掛けたのでした。


2000 年 7 月 12 日。
成田国際空港から、大韓航空「ソウル経由フランクフルト行」に乗り込む。
片道チケットは少々割高だったけれど、先のことを細かく決めたくはなかった。
それにしても出発前は想像以上にすることが多く、前夜はほとんど睡眠がとれずのスタート。
乗換え含め延べ16時間の飛行も、機内食の時間以外はほぼ眠りながら到着してしまった。機内食のビビンバが最高に美味しかったなぁ。
途中ふと目が覚め、小さな窓外に拡がる“雲の海”が不思議な美しさだったことも
まるで夢の中で見ていたよう・・・
あんなにも想いを寄せ続けてきた旅の、何だかあっけない始まり。


空が違う! 空の色が 雲の厚みが 光が違う!
けれどもフランクフルトへ降り立った瞬間、目にした空の輝きに驚いた。
まるで水彩絵の具を溶かしたような水色のなかに
真っ白な厚みのある雲が 悠々と広がっている・・・
見たことのない空だった。 感動的だった。
同じ地球でも、こんなに空って違うものなの。
・・・なんだか突然に、別の地に降り立ったのだという実感が湧いてくる。

旅の始まり 新たなる空の下
私たちはただ黙って その暮れゆく光を
いつまでも眺めていた