tabi blog

コスト・バランス

ここ数年、土地探し前の段階から住宅設計のご相談に来る方が多くなりました。
私たちは、とても賢いやり方だと感心しているのです。

建築設計者の仕事とは
ある土地に建築の設計をし、工事の見積り調整をし、その工事を監理すること。
ですから順を踏んで、まずは敷地を自分で決め購入してから相談しようと
仕事内容をよく理解した上でご依頼いただくことも、大変ありがたいことです。

しかしながら「土地を求め、自分の家を建てる」ということは
多くの方にとって一生に一度、大金も動かす人生の大プロジェクト。
“どんな環境で、どんな風に暮らしたいか”という住まうことの根幹を話し合い
前もってコスト・バランス、予算の配分を整理できるならば
これから始める土地探しの、可能性の視野をも拡げることにつながります。

私たちは大きく分けて、二つのコスト・バランスを重視しています。

一つめは「土地と建物」のコスト・バランスです。
現代の日本、特に都心近くでは
建築コストよりも土地の方が高くつく、という状況が少なからずあります。
ですので土地探し前にご相談に来られた方は
全体の予算から、求める理想の建築予算、その他の諸経費を引いて逆算し
土地予算の明確な目標を立ててから
より良い住環境の土地探し、そして土地の価格交渉にも臨めるのです。

もう一つは「建物と外構」、
つまり建物の“ 内と外 ”のコスト・バランスです。
私たちは予算計画において、建物で予算を使い切ってしまうのではなく
予め必要な外構予算を取り分け、それを最後まで守るように勧めています。
外も、内と同じように整えることで初めて
家族にとって、その地域にとっても
心身共により良い環境・街並みが、つくられると考えるからです。
そしてそれは、初めに上手くコスト配分することで
最終的に、思い描いた理想の住環境につながる、そう感じるのです。

ある家族は、都心への交通の便が良く、土地の価格も高いのですが
大きな公園の近くに小さな敷地を見つけ、そこへ住むことに決めました。
自分たちの好きな街環境で、アウトソーシングしながら暮らす。
外の通りに面して一本、
内からいつでも眺められ場所に一本の、大きな樹木を植え
家は本当に必要な、基本的なところを満たし
その小ささは、柔軟な発想の設計をすることで良しとしたのです。

ある家族は、都心の仕事場まで少々通勤時間の掛かる郊外に目を向け
庭の持てる、ゆとりある景色の広がる住環境を手に入れました。
実のなる樹、草木花を季節ゆたかに植え、戸外での食事を愉しめる場も。
住まいも庭も、これから時間を掛けてゆっくりと手を入れてゆく。
「ここに暮らす今、どんな家を見ても我が家が一番だと思えるんです」
それは自分たちの理想の暮らしを求め
頭を柔らかくし、コスト・バランス良く家づくりを進められた家族の
心からの言葉なのでしょう。


“ 健やかで豊かな環境に暮らし生きてゆく ”
その原点に立ち戻って、住まいを発想することを
各々の努力に任されたこの国で
時に忘れ去られそうになる時代に
けれども、その実現の手助けとなるのは
コストに対するバランス感覚を持つことではないかと
私たちは考えるのです。