tabi blog

変化の向こうに 1

設計のスタート時、クライアントの皆さんには
自分たちの“今”の暮らしだけでなく、“近い将来”を見据えて
ご希望ご要望をまとめていただきます。
近い将来とは、例えばお子さんの巣立つ10年後、
あるいは退職されて家で過ごすことになる20年後30年後のことです。
「これが最後の家、私たちの “終の住み処” です」
といらっしゃるご家族の、これまでの人生・深き歩みをお聞きする度に
“人生最後の家“の設計を託される、重みと有り難さを、切に感じるのです。


私、布施が初めて一人で手掛けた設計は、実家の改装でした。
妹は音楽家として既に海外へ渡っていたので
実家にはちょうど還暦を迎える両親と、設計事務所を退職した私の3人暮らし。
私の初めてのクライアントは
退職を機に改装の設計を依頼してくれた、父と母でした。

築30年の実家は、当時の私とほぼ同い年。
母の故郷の山から切り出した木材で建てた、木造の注文住宅でした。
その頃の日本の住宅の、ほとんどの間取りがそうであったように
この家の台所もまた、北側に据えられていました。
朝から電灯を点けっぱなしの、薄暗い印象が拭えないダイニングキッチン。
共働きの夫婦が退職し、残りの人生の大半を家で過ごすとなった時
このダイニングキッチンの陰鬱さを取り除きたい、明るいキッチンが欲しい
というのが、母からの最たる希望でした。
何より我が娘は、建築家の元で修行明けしたばかりの卵ですから
それは母としては、これまで苦労して支えた甲斐を示して欲しい、
夢を叶えて欲しい と思うのは当然だと思います、はい。笑

既存の北側にあるダイニング・キッチンを明るくする・・・
与えられた課題は難題でした。悩みに悩んだ末、私は屋根裏に上ってみました。
そして一つの考えが浮かんだのです。
ちょうどダイニングテーブル上部にあたる2階の床組を組み替えて
小さな吹抜けを作れないだろうか。
その吹抜けの先、2階の天井をトップライトにすることで
空から、十分な陽光を取り込めるのではないか。

そうして棟梁や職人皆さんの知恵を借りながら実現したそのダイニング空間は
この家の中心とも言えるべき場所になりました。
太陽の光と風通しは、家族の暮らしに想像以上のものをもたらしてくれました。
いつも暗かったダイニング・キッチンは、どんよりとした曇りの日でさえも
昼間は十分な明るさに満たされ、刻々と移ろいゆく空の色が
家に満ちる空気までも変えていくのを、肌に感じられたのです。
「気が晴れ晴れするというのは、こういう感覚なのね!」と母、満面の笑顔。


頭上の青い空には 悠々と雲が流れ
時に一瞬の速さで 鳥たちが飛び去ってゆく
光が一様な曇り空  降り始める雨の淋しい音
嵐が過ぎ去った後の 夕暮れを満たす至福の光
切り取られた夜空 顔を出す月に
思わず皆で 心ほだされ・・・


そんな変わりゆく空の下で、日々の暮らしを重ね
やがて私も遅咲きながら独立。
実家は父と母の二人暮らしになりました。